冷徹騎士団長の淑女教育
第七章 溢れる想いに封印を
やがて、管弦楽がワルツの調べを奏ではじめ、いよいよダンスがはじまった。
アイヴァンと連れの女性は、人ごみに紛れどこに行ったのかも分からなくなってしまった。
「さあ、クレア。僕と踊ろう」
エリックが、慣例に倣って手を差し出し、クレアをダンスに誘う。自分よりも身分の高い男性からの誘いを断るのは、淑女のマナーに反する。
クレアは一瞬戸惑ったものの、アイヴァンから教わった通りの所作でエリックの手をとった。
踊り出した二人に、すぐに多くの視線が向けられる。
「エリック大公殿下と踊られている、あの女性はどこのご令嬢かしら? 身のこなしが優雅で完璧だわ」
「見事なステップだ。よほどの情操教育を受けてきたに違いない」
ため息の漏れるようなギャラリーの声を耳にしながら、アイヴァンがいかに自分を完璧にしつけてくれたかを、クレアは思い知った。
――『君は、この国の誰よりも完璧な淑女にならなければならない』
アイヴァンは、クレアに常々そう言ってきた。彼の言葉に嘘偽りはなかった。それを身を持って実感し、クレアは胸を熱くする。
だが、目の前にそのアイヴァンはいない。クレアの手を包み込む大きな掌も、不愛想な表情も、クレアの所作のひとつひとつを厳しくチェックする鋭い瞳もない。
エリックのダンスは完璧だ。むしろ、アイヴァンよりも上手いくらいだと思う。
身のこなしが軽やかで、表情も明るい。彼を見ているギャラリーまで楽しそうだ。
だがクレアの胸には、アイヴァンに触れられているときにいつも感じる、身を焦がすような熱情が湧かない。
エリックと触れ合い、踊り続ければ続けるほどに、脳裏を過るのはアイヴァンのことばかりだった。
それに気づいたのか、エリックは一曲きりでクレアと踊るのをやめた。
「顔色が悪いようだけど、大丈夫?」
ホールの中心部を離れ、壁際でクレアに心配そうに声をかけるエリック。
「ごめんなさい……。少しだけ、外の空気を吸ってきてもいいかしら」
アイヴァンと連れの女性は、人ごみに紛れどこに行ったのかも分からなくなってしまった。
「さあ、クレア。僕と踊ろう」
エリックが、慣例に倣って手を差し出し、クレアをダンスに誘う。自分よりも身分の高い男性からの誘いを断るのは、淑女のマナーに反する。
クレアは一瞬戸惑ったものの、アイヴァンから教わった通りの所作でエリックの手をとった。
踊り出した二人に、すぐに多くの視線が向けられる。
「エリック大公殿下と踊られている、あの女性はどこのご令嬢かしら? 身のこなしが優雅で完璧だわ」
「見事なステップだ。よほどの情操教育を受けてきたに違いない」
ため息の漏れるようなギャラリーの声を耳にしながら、アイヴァンがいかに自分を完璧にしつけてくれたかを、クレアは思い知った。
――『君は、この国の誰よりも完璧な淑女にならなければならない』
アイヴァンは、クレアに常々そう言ってきた。彼の言葉に嘘偽りはなかった。それを身を持って実感し、クレアは胸を熱くする。
だが、目の前にそのアイヴァンはいない。クレアの手を包み込む大きな掌も、不愛想な表情も、クレアの所作のひとつひとつを厳しくチェックする鋭い瞳もない。
エリックのダンスは完璧だ。むしろ、アイヴァンよりも上手いくらいだと思う。
身のこなしが軽やかで、表情も明るい。彼を見ているギャラリーまで楽しそうだ。
だがクレアの胸には、アイヴァンに触れられているときにいつも感じる、身を焦がすような熱情が湧かない。
エリックと触れ合い、踊り続ければ続けるほどに、脳裏を過るのはアイヴァンのことばかりだった。
それに気づいたのか、エリックは一曲きりでクレアと踊るのをやめた。
「顔色が悪いようだけど、大丈夫?」
ホールの中心部を離れ、壁際でクレアに心配そうに声をかけるエリック。
「ごめんなさい……。少しだけ、外の空気を吸ってきてもいいかしら」