冷徹騎士団長の淑女教育
すると、何者かに背中を支えられる。

「大丈夫ですか?」

心配そうにクレアの顔を覗き込んできたのは、ダークグレーの長めの髪を後ろで束ね、銀縁の細フレームの眼鏡をかけた四十代と思われる男性だった。

侍従らしき装いだが、刺繍で細かく装飾された上着は高価そうで、権力の高さがうかがえる。



見ず知らずの男性に助けられたことに、クレアは顔を赤くする。

「申し訳ございません……!」

慌てて気を持ち直し、姿勢を保った。

クレアの気丈な振る舞いに、眼鏡の男は驚いたような顔を見せたあとで、すぐに笑みを浮かべる。

「お疲れのようですね」

「その、こういった場には、慣れていないもので……」



たじたじと答えるクレアを、男は年長者らしい優しい眼差しで見つめていた。

「失礼ですが、どちらのご令嬢でいらっしゃいますか? 私はこの城の執務官長を務めております、ダグラスと申します」

執務官長は、有能な貴族しかなりえない役職だ。

おそらく彼も、高貴な出なのだろう。身にまとう空気が洗練されている。

「私は、クレアと申します……」

クレアに、名乗るような身分はない。

すると――。

「失礼」

向かい合うクレアと執務官長の間に、唐突に割って入ってくる者がいた。

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