冷徹騎士団長の淑女教育
人気のない廊下で、クレアとアイヴァンは二人きりになる。

クレアが息を詰めていると、唐突にアイヴァンと視線がぶつかった。

怒っているような悲しんでいるような複雑な彼の表情に、クレアは今更のように罪悪感を覚えた。

「……帰るぞ」

アイヴァンが放った言葉は、そのたった一言だけだった。

クレアの返事を待たずしてアイヴァンは彼女の手を引くと、エントランスに向けて廊下を速足で歩み出した。




外は、すっかり日が落ちていた。

漆黒の夜空には三日月が高く浮かび、夏の宵風が木々をざわつかせている。

風に乗って、城内から遠く管弦楽の軽快な調べが響いていた。

「第六区の方角へ頼む」

アイヴァンは客を待っていた辻馬車にクレアを乗せると、自らも隣に乗り込み、御者席と客席を隔てている窓を開けて端的に行き先を告げた。

「かしこまりました」と、窓の向こうから小さく返事が聞こえ、すぐに鞭のしなる音がする。

カラカラと軽快に車輪の音を響かせながら、馬車は木々の生い茂る道を走り出した。
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