冷徹騎士団長の淑女教育
アイヴァンが、長い足を繰り出しクレアのもとへと近づいてくる。
オフホワイトのシャツに、濃紺のベストという軽装に着替えている。バロック王国からユーリス国に戻る道中、アイヴァンは常に甲冑を身に着けていたので、クレアは彼の素顔を見るのは初めてだった。
柔らかそうな質感の黒髪に、見るものを魅了する鋭い漆黒の瞳。筋の通った鼻梁に、形の良い唇。上背はクレアが今までに会った誰よりも高く、ラフな格好でもなお、衣服の下には鍛え上げられた肉体の気配がする。
クレアの小さな心臓が、ドクンドクンと鼓動を刻んでいる。
戸惑いながらも、クレアは少しずつ現状を受け入れつつあった。敵国の騎士に拾われ、情けから住処を与えられた。冷酷な印象を与える見た目だが、本当の彼はおそらく優しい人なのだ。
あの晩、あの大きな掌がクレアの醜い痣に触れた時から、クレアはそう感じていた。
きっと、素敵な言葉をかけてもらえる――。
だがアイヴァンは期待に胸を弾ませるクレアを見下ろすと、事務的に問いかけてきただけだった。
「字は書けるのか?」
「……いいえ」
「では、読めるのか?」
「少しだけなら……」
オフホワイトのシャツに、濃紺のベストという軽装に着替えている。バロック王国からユーリス国に戻る道中、アイヴァンは常に甲冑を身に着けていたので、クレアは彼の素顔を見るのは初めてだった。
柔らかそうな質感の黒髪に、見るものを魅了する鋭い漆黒の瞳。筋の通った鼻梁に、形の良い唇。上背はクレアが今までに会った誰よりも高く、ラフな格好でもなお、衣服の下には鍛え上げられた肉体の気配がする。
クレアの小さな心臓が、ドクンドクンと鼓動を刻んでいる。
戸惑いながらも、クレアは少しずつ現状を受け入れつつあった。敵国の騎士に拾われ、情けから住処を与えられた。冷酷な印象を与える見た目だが、本当の彼はおそらく優しい人なのだ。
あの晩、あの大きな掌がクレアの醜い痣に触れた時から、クレアはそう感じていた。
きっと、素敵な言葉をかけてもらえる――。
だがアイヴァンは期待に胸を弾ませるクレアを見下ろすと、事務的に問いかけてきただけだった。
「字は書けるのか?」
「……いいえ」
「では、読めるのか?」
「少しだけなら……」