冷徹騎士団長の淑女教育
車内は、重苦しい雰囲気に包まれていた。

窓辺に頬杖をつき、終始無言で車外の景色を見ているアイヴァンは、クレアの方を一ミリたりとも見ようとはしない。

相当怒っているようだ。怖気づいたクレアは、ただ黙って前を向いて座ることしかできない。

(何か言わなくちゃ)



アイヴァンをここまで怒らせたのは、クレアの責任だ。

これ以上黙っているのは、淑女としてはあるまじき行為だ。そう思い至って、クレアはついに口を開いた。

「申し訳ございません、アイヴァン様……」

エリックに騙されたなどという言い訳は、通用しない。全ては、クレアの甘さが招いた結果だ。

クレアが謝っても、アイヴァンは何も返そうとはしなかった。

夜道を駆ける馬車の音が、ただカラカラと虚しく車内に響き渡る。



「クレア」

こちらを見ないままにアイヴァンが口を開いたのは、クレアが謝罪の言葉を口にした大分あとのことだった。

「君をもう、あの屋敷に置くことはできない」

「………」

クレアは、顔面蒼白になる。

やはりこの度のことで、アイヴァンはついにクレアに愛想をつかしてしまったようだ。
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