冷徹騎士団長の淑女教育
クレアは、きつく唇を噛んだ。

自らの行動が招いた結果とはいえ、素直には受け入れられない。

ただ、この先もずっとアイヴァンとともにいたい。

クレアの願いは、それだけだった。




「……嫌でございます」

「もう決めたことだ」

「どうしたら、この先も置いていただけるのですか……?」

クレアの悲痛な声に、ようやくアイヴァンが振り返った。

鋭い瞳が、深刻な眼差しでクレアを見つめている。

「もう無理だ」

アイヴァンは、もう一度ゆっくりと言った。

アイヴァンの念を押すような口ぶりから、クレアはもう取り決めが覆ることはないのだと悟る。

たまらなくなって、瞳から涙が溢れ出した。




「お願いです……。私には、あなたしかいないのです」

クレアに生きる希望を与えてくれた、漆黒の騎士。

あなたのいない毎日など、何の意味も持たない。

たびたびクレアに向かってそうしたように、アイヴァンは年長者特有の大人びた微笑を見せた。

「クレア、よく聞け。君の世界には、いままで俺かレイチェルしかいなかった。だから君はそう思い込んでいるだけだ。世界が広がれば、価値観も変わる。俺のことなど、すぐに忘れるだろう」

当たり前のように言われて、クレアは微かな怒りを覚える。

アイヴァンは、気づこうともしていないのだろう。クレアが、どれほど彼を慕っているのかなど。
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