冷徹騎士団長の淑女教育
だが、クレアの期待も虚しく、押しのけられるような形で体を引き剥がされる。

そして、両手で肩を掴まれ、ストンともとの位置に座らされた。

「君に、ひとつ知らせておかなければいけないことがある」

クレアから視線を背けたアイヴァンは、いつもの厳しい口調に戻っていた。

「俺は婚約した。君も見ただろう? 相手は、今夜俺が連れていたローズという女性だ」




稲妻で貫かれたような衝撃が、体に走った。

頭の中が真っ白で、アイヴァンが何を言っているのか理解できない。

「……だから、私を屋敷から追い出すのですか?」

「それもある」

クレアの喉元から、ふっと自嘲的な笑みが零れた。

身を持ってアイヴァンに迫った自分が、馬鹿みたいだ。アイヴァンはとっくに心に決めた女性がいるというのに。

クレアの行動は、アイヴァンにとって迷惑以外の何でもない。

「申し訳ございません、アイヴァン様……」

自分でも、一体何に対して謝ったのかよく分からなかった。

気づけばクレアは、ショックから気を失うように深い眠りについていた。
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