冷徹騎士団長の淑女教育
アイヴァンは、ちらりと御者席の方に視線をやった。

客席と御者席を隔てている窓はほとんどが黒塗りで、かろうじてガラスの小窓がある程度のものだった。視界の悪い夜道を凝視しながら馬を操っている御者は、客席の方を振り返る気配もない。

アイヴァンは、静かに寝息をたてているクレアの金色の髪に触れた。

そして、耳の上から頬、顎先へと指先を滑らす。

滑らかな肌の感触に、焼けつくような感情が湧き立った。

先ほどの彼女の愛の告白が、胸の奥をいまだに焦がしてやまない。



彼女は、エリックに恋しているのだと思っていた。

舞踏会で踊る二人は恋人同士そのもので、アイヴァンは大人げない嫉妬心を押し殺すのに必死だった。

だが、クレアはずっと、自分のことを想ってくれていた。

おそらく、その感情は彼女が世間知らず故のまやかしに過ぎないだろう。

――いいや、そうでなくてはならない。

自分と彼女は、そういう関係にはなりえないのだから。
< 126 / 214 >

この作品をシェア

pagetop