冷徹騎士団長の淑女教育
アイヴァンは数日後に、”彼”の命令でクレアを別の場所に移すつもりだった。

今夜のことでクレアは、存在を知られ過ぎた。このままでは、クレアの身に危険が及ぶかもしれない。

それにあの屋敷にこのまま留めれば、エリックはまた画策してクレアに会いに来ようとするだろう。

あれは、危険な男だ。いつもすましているようでいて、胸の内にしたたかな感情を秘めている。実は、フィッシャー大公家の中でも最も危険な人間なのかもしれない。



クレアを移動させる場所は、”彼”の管轄だ。

今までのように、アイヴァンはクレアに会うことはできない。

それにクレアの想いを聞いた今、彼女から離れなければいけないことを如実に感じていた。

彼女には、なすべきことがある。

自分のような年増の男に、まやかしの恋をしていい存在ではない。




そっと、もう一度クレアの頬に触れた。

するとクレアはピクリと体を揺らし、

「アイヴァンさま……」

まるで子供の頃のような、無邪気な声で寝言を言った。
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