冷徹騎士団長の淑女教育
幼い頃から働き詰めで、文字を習う機会などなかった。屋根裏に転がっていた古い書物を眺めるうちに、少しだけ読めるようになった程度だ。

クレアの返答を耳にした途端、アイヴァンの表情が険しくなる。そして、抑揚のない声のままこう言い放った。

「いいか。文字の読み書きが出来ない人間は、この邸にいる資格はない。これから、死ぬ気で勉強しろ」

「………」

クレアの期待を打ち砕くには十分すぎるほどの、冷たい視線だった。あの晩、痣に触れた手のぬくもりが幻だったのかと疑うほどに。

「それから、この邸からは俺の許しがない限り出てはならない。食事以外は毎日勉強に費やせ」

冷え冷えとした声に、クレアは怯えた。大人から冷たくされるのには慣れているが、アイヴァンの冷たさは格別だった。有無を言わせぬ気迫に、まるで金縛りにあったかのように声が出ない。




「アイヴァン様。子供相手にその言い方は……」

見かねた様子のレイチェルが横槍を入れてきたが、アイヴァンの一睨みで口を閉ざしてしまう。

「子供も大人も関係ない。弱い人間の面倒を、俺は見るつもりはない」

最後にとどめのように言い捨てると、アイヴァンはクレアからスッと視線を反らして部屋の外に出て行った。

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