冷徹騎士団長の淑女教育
玄関ホールで待っていたアイヴァンも、今まで見たこともないほどラフな装いをしていた。

胸元の空いた生成りのシャツに、草色のズボン、すり切れた茶色のロングブーツ。帯剣はしておらず、一見して旅人のようだ。

それでも万人よりも手足は長く、見る者に戦慄を与える鋭い眼光は健在だ。だが今の彼を見て、ユーリス国の王宮騎士団長であることを見破るものはいないだろう。

「行くぞ」

クレアの支度ができたのを確認するなり、アイヴァンは玄関から外へと出る。門前では、鞍をつけた茶色い馬を引き連れ、ベンが待ち構えていた。

「もしかして、馬で行くのですか?」

乗馬は、定期的に庭でアイヴァンに仕込まれているので、自信はある。だが馬での外出は、十年前アイヴァンにこの屋敷に連れて来られたとき以来だ。

「そうだ」

アイヴァンは簡潔に返事をすると、手慣れた様子で先に馬に跨り、クレアの方へと手を伸ばした。ドキドキしながらもクレアはアイヴァンの手を握り、逞しい腕に鞍の上へと引き上げてもらう。

「いってらっしゃいませ」

門を開け放ったベンの声を合図に、アイヴァンが手綱を引く。馬の嘶きとともに、二人を乗せた馬は門をくぐると道を駆けて行った。
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