冷徹騎士団長の淑女教育
アイヴァンは城から迎えを寄越すと言っていたので、てっきり彼の部下である騎士団員が来るものだと思い込んでいた。

だがそこにいたのは、先日の舞踏会で見かけた執務官長だった。たしか、名前はダグラスだ。

「ご無沙汰しております、ダグラス様」

クレアは背筋をピンと伸ばすと、嫋やかに淑女の礼をした。銀フレームの眼鏡の奥で、ダグラスが穏やかに瞳を細める。そして三角帽子を頭から取ると、クレアに凛々しく礼を返した。

「私のことを覚えておいででしたか」

「どうしてあなたがこちらに?」

「それは、あなたを私の家にお連れするためです。クロフォード騎士団長からの要請でね」




クレアはこれから、どうやら執務官長ダグラスのもとに住まうらしい。ダグラスと会ったのは舞踏会でのつかの間のひとときだったが、彼の人柄の良さには感付いていた。

新しい邸の主が、見ず知らずの人ではなくて良かったと思う。きっと極端に知り合いの少ないクレアを思って、アイヴァンが気を利かせてくれたのだろう。

「舞踏会であなたを一目見て、いたく気に入りましてね。私たち夫婦には子供がいないものですから、ぜひ養女にとクロフォード騎士団長に私の方から相談したのですよ」

「そうでしたか。身に余るお言葉、光栄でございます」

アイヴァンに教え込まれたように、クレアは滑らかに返事をする。アイヴァンのいないこの先は、いつ何時も淑女であることを忘れてはならない。アイヴァンと約束したからだ。
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