冷徹騎士団長の淑女教育
「あの……、聞いてもよろしいでしょうか」

「何でしょう?」

「私がバロック王国から来た孤児であることは、ご存知でしょうか?」

「ええ、知っております」

「本当に良いのでしょうか? ダグラス様と奥様がお迎えする養女が、私で……」

アイヴァンが徹底した淑女教育を施してくれたとはいえ、孤児であるクレアには、何の後ろ盾もない。そんなクレアを、どうしてダグラスは養女として迎えることにしたのだろう?

「もちろんです。むしろ、あなた以外の女性など考えられません」

ダグラスの落ち着いた反応に、クレアはひとまずホッとした。

ダグラスが窓辺に目をやりながら、何気なく言葉をつなぐ。

「私も、もとはバロック王国の出ですので」




クレアは、驚いて目を瞬いた。

「そうなのですか?」

「はい。十年前、ユーリス国の王宮騎士団の進撃を受けるまでは」

ダグラスが、極上の笑顔をこちらに向けた。だが、目の奥が尖ったつららのように冷え切っている。背筋を震えさす何かを秘めた笑顔に、クレアは固まった。

ダグラスの顔は、柔和なようでいてよく見れば彫りが深い。

遠い昔に見た誰かの面影が、その顔に重なる。

ドクン、とクレアの心臓が警笛を鳴らした。

(まさか……)
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