冷徹騎士団長の淑女教育
「あなたは子供でしたので、おそらくご存じなかったでしょう。あなたが雇われていたあの邸は、バロック王国の政治をつかさどる宰相が住む邸でした。ユーリス王国の騎士団にバロック王国が壊滅させられたあの日、宰相は連行され、極秘に処刑された。ある大きな事件の首謀者としてね」

声色さえも、変容させたダグラス。

何か、とてつもなく悪いことが起ころうとしている。そんな予感にクレアは悪寒が止まらない。

「だが、宰相は死んでいなかった。処刑されたのは、哀れな替え玉だったというわけです」

「替え玉? では、あなたは……」

「お察しの通り、かつてのあなたの本当の雇い主ですよ」

悪びれた風もなく、ダグラスは言った。




ぞぞっと、クレアの背筋を冷たいものが駆け上がる。知らず知らずのうちに座席の隅まで後ずさっていたクレアを追い詰めるように、ダグラスが身を乗り出した。

「ずっとあなたを探していたのですよ。あなたは、大切な切り札ですからね」

クレアを咎めるように、冷淡な笑みを浮かべるアイヴァン。

「なぜ、孤児のわたしなんかを……」

冷ややかな笑いを崩さないダグラスは、クレアの質問には答える様子もなく、自分勝手に言葉を続ける。

「いっそのこと殺しておけばよかったと、幾度も後悔しましたよ。まさか、あの堅物のアイヴァン・クロフォードが連れ帰って極秘に住まわせていたとはね。それも、この十年どこにも情報を漏らすこともなく」
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