冷徹騎士団長の淑女教育
そんなクレアの心の葛藤に気づいたのだろうか。

アイヴァンは太刀と太刀の合間に、息を荒げながらクレアに視線を向けると、微笑みかけてこう言った。

「あなたのことは、たとえ死んでも俺が守る。だから心配するな」



場違いなほどに優しい声だった。今までだって、クレアはアイヴァンにこんなに優しい言葉をかけて貰ったことはない。

だからこそ、アイヴァンが死を本気で覚悟しているのが伝わってきて、クレアは震える息を呑みこんだ。

アイヴァンは、体のあちらこちらを負傷していた。頬からは数ヶ所生々しい血が滲み、足も負傷しているのか時折ふらつくような動きをしている。

思わず目を瞑りたい衝動に駆られたが、クレアはぐっと耐えた。自分のために戦っている彼を前に、逃げることは許されない。彼が死に瀕しようとも、それを見届けるのが自分の役目だ。

「ホホホ、どんなに強がっても、もう死にかけてるじゃない。国一の敏腕騎士も、もうこれまでね。哀れな末路を、しっかり見届けてあげるわ」

まるで演劇でも鑑賞するように男たちの闘いぶりを眺めていたデボラが、部屋の隅で魔女さながらの笑い声をあげたときだった。

怒号のような足音とともに、蹴破られたままの扉から、大勢の男たちが剣を手に部屋に姿を現した。

アイヴァンと同じ群青色の騎士団服には、ユーリス王国のシンボルである鷹の紋章が描かれている。

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