冷徹騎士団長の淑女教育
「アイヴァン様、死なないで……」

淑女でもない、王女でもない。彼を慕う一人の少女の瞳で、クレアは懇願する。

潤んだ褐色の瞳から落ちた涙の雫が、傷ついたアイヴァンの頬を濡らしていく。

アイヴァンが、うっすらと目を開けた。

「クレア」

「アイヴァン様……!」

アイヴァンが震える手を伸ばした先には、痣のあるクレアの左手があった。

初めて会ったときのように、アイヴァンはクレアのその手首を大きな掌ですっぽりと包み込む。

血にまみれたぬくもりが、手首を介してクレアの全身にまで浸透した。

クレアの手首を包み込んでいた掌は、やがて涙でボロボロのクレアの頬に移動した。

クレアは幼子のようにしゃくり上げながら、幼い頃幾度かそうしたように、アイヴァンの大きな掌に頬をすり寄せる。

「クレア……強く生きろ……」

そんなクレアを見つめながら、アイヴァンが愛しげに瞳を細めた。

それからアイヴァンは、まるでろうそくの炎が吹き消されるときのように、フッと意識を手放すとがっくり床に身を横たえた。

「アイヴァン様……。いや、いやよ……っ!」

あらんかぎりの声で、クレアは叫んだ。

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