冷徹騎士団長の淑女教育
「エリック、会いに来てくれるのはいいんだけど、もっと普通の入り方はできないのかしら?」

クレアは今、城の一角にある自室のバルコニーにいた。ぼんやりと夕焼けに染まる王都アルメリアを眺めていると、白亜の柱が立ち並ぶバルコニーの柵から、エリックが突如ひらりと舞い降りてきたのだ。

どうやら、二階にあるこの場所まで、柱伝いに登って来たらしい。

「ははっ。だって、表立って入ると誰かが付き添うだろ? 君との会話を、人に聞かれるのは好きじゃないんだ」

「まあ、それは私も同じだけど……」

「本当は、こんなかたっ苦しい城なんか出歩きたくないしね。僕がここに来るのは、愛しい君がいるからだ」



透き通るような碧眼で、じっとクレアを見つめるエリック。

「だめよ」

クレアは、エリックのひたむきな瞳から視線を反らした。

「私は、あなたのことは好きにならないわ。それに私たちの先祖は、兄弟だったのよ。いくら薄まっているとはいえ、血のつながりのあるあなたをそんな目でみることはできないわ」

頑なにエリックの方を見ようとしないクレアの金色の髪を、エリックがひと房手に取る。

「違うね。君が僕を拒むのは、そんな理由からじゃない。まだ、彼のことが好きなんだろ?」
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