冷徹騎士団長の淑女教育
「君は、この国を治める器じゃない」
エリックのその言葉は、クレアが今まで必死に食らいついてきた王女としての心意気を、容赦なく踏みにじった。
「……何を言うの?」
「僕は初めて会ったときから気づいていたよ。君が、この国の隠された王女だってことにね。だから、君に近づいたんだ。君を蹴落とすために」
日頃の陽気な雰囲気から一転して、淡々と言葉を放つエリック。
「僕は幼い頃から、国を束ねる者としての教育を受けて来た。君のような、生半可な気持ちじゃないよ。フィッシャー大公家は代々、王家であるウインストン家を支える役目を担っていた。後継者のいないこの国の行く末を案じて、父は特に僕に王としての教育を徹底したんだ」
クレアに迫ったエリックは、指先でクレアの顎を捉える。そして、クレアを言い含めるように、一言一句はっきりと言葉を繋いだ。
「僕の方が、君よりも君主に向いている。フィッシャー家の誤解が解けた今なら、陛下もそれを認めるさ。君が治めるよりも僕が治める方が、この国は確実に安泰だ。一人の男を愛するあまり、心が揺れ動いてばかりの軟な君主はいらない」
そこでエリックは、ようやく彼らしい朗らかな笑みを浮かべる。
「行けよ、クレア。アイヴァンのもとへ。彼のことが、好きで好きで仕方がないんだろ? この国のことは、僕に任せろ」
思いもかけないほど優しいエリックの声に触発されるように、頑なに押し込めてきたクレアの想いが溢れ出す。
だが、寸手のところでクレアはそれを押しとどめる。そんなクレアを諭すように、エリックは妹を思いやる兄のような眼差しを浮かべた。
「いいかクレア、一度きりの人生だ。幸せのためには、ときに逃げ出すことも大事なんだよ」
エリックのその言葉が、頑なに塞がれていたクレアの本音を暴き出す。
「でも、無理よ……」
クレアは、緩やかに被りを振った。
「アイヴァン様には、愛する女性がいるわ」
エリックのその言葉は、クレアが今まで必死に食らいついてきた王女としての心意気を、容赦なく踏みにじった。
「……何を言うの?」
「僕は初めて会ったときから気づいていたよ。君が、この国の隠された王女だってことにね。だから、君に近づいたんだ。君を蹴落とすために」
日頃の陽気な雰囲気から一転して、淡々と言葉を放つエリック。
「僕は幼い頃から、国を束ねる者としての教育を受けて来た。君のような、生半可な気持ちじゃないよ。フィッシャー大公家は代々、王家であるウインストン家を支える役目を担っていた。後継者のいないこの国の行く末を案じて、父は特に僕に王としての教育を徹底したんだ」
クレアに迫ったエリックは、指先でクレアの顎を捉える。そして、クレアを言い含めるように、一言一句はっきりと言葉を繋いだ。
「僕の方が、君よりも君主に向いている。フィッシャー家の誤解が解けた今なら、陛下もそれを認めるさ。君が治めるよりも僕が治める方が、この国は確実に安泰だ。一人の男を愛するあまり、心が揺れ動いてばかりの軟な君主はいらない」
そこでエリックは、ようやく彼らしい朗らかな笑みを浮かべる。
「行けよ、クレア。アイヴァンのもとへ。彼のことが、好きで好きで仕方がないんだろ? この国のことは、僕に任せろ」
思いもかけないほど優しいエリックの声に触発されるように、頑なに押し込めてきたクレアの想いが溢れ出す。
だが、寸手のところでクレアはそれを押しとどめる。そんなクレアを諭すように、エリックは妹を思いやる兄のような眼差しを浮かべた。
「いいかクレア、一度きりの人生だ。幸せのためには、ときに逃げ出すことも大事なんだよ」
エリックのその言葉が、頑なに塞がれていたクレアの本音を暴き出す。
「でも、無理よ……」
クレアは、緩やかに被りを振った。
「アイヴァン様には、愛する女性がいるわ」