冷徹騎士団長の淑女教育
「愛する女性……?」

エリックが、眉根を寄せる。

「ローズのことよ。あなたも舞踏会で見たでしょう? あのとき、アイヴァン様と一緒にいた女性よ」

エリックはそのときのことを思い出すように上を向いたあと、突如ぷっと吹き出すように笑った。

「本気で言ってるの? やっぱりそんな戯言を信じているような人間に、この国は任せられないな」

「戯言ですって?」

むっとしたクレアは、語気を強める。

「彼女のことを思い出せ。いつも、薔薇の匂いがしていただろ? あれは香水ではなく、本当の薔薇の匂いだ。君の近くに、毎日薔薇に触れている人間が一人いるだろう? そもそもあんなデカい女、僕にしてみれば一目瞭然だけどな」

(毎日薔薇に触れている人間……?)

馬鹿にしているようなエリックの様子に腹を立てながらも、クレアは思考を巡らせた。薔薇と言えば、ベンだ。ベンはいつも薔薇園にいて、薔薇の世話に勤しんでいる。だが、ローズとベンに何のつながりがあるというのだろう。

そこまで考えてから、クレアは予想以上に素朴な答えに行きつき、「あっ」と声を上げた。

「……まさか、ベンなの? ローズの正体は、ベンなの?」

「ご名答」

口の端を上げて、エリックが答える。
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