冷徹騎士団長の淑女教育
それから約一年後。

ユーリス王国の辺境地ディクシーの教会では、この地を治めるクロフォード辺境伯と若き妻の結婚式が厳かに執り行われた。

かつてはバロック王国の一部であり厳しく統治されていたディクシーは、クロフォード辺境伯が取り仕切るようになってから、みるみる装いを変えていった。

貧困層にも迷わず手を差し伸べるクロフォード辺境伯の政策は、人々に思いやりの心を育んだ。自然とディクシーには人々が集まるようになり、街も華やかに変わっていった。





出来たばかりの白亜の教会で、群青色の騎士団服に身を包み、肩から朱色の勲章を掲げたアイヴァンは、教会の入り口から愛する花嫁が歩んでくるのを祭壇の前で待ち構えていた。

純白のウエディングドレスに身を包んだクレアは、まるで女神がこの世に降臨したかのように美しかった。

金色の髪は低めにまとめられ、この日のためにベンが精魂込めて育てた色とりどりの薔薇で飾られている。

白く穢れを知らない肌も、濡れた薄桃色の唇も、今すぐに人目をはばからず我が物にしてしまいたいほど麗しい。

クレアはアイヴァンと向かい合うようにして立つと、ベールの向こうで嫋やかに微笑んだ。

そんな若妻を見つめながら、孤独な少年時代を過ごし、かつては鬼の騎士団長として恐れられていた男は、眩しげに目を細める。




やがてアイヴァンは、今はもうブレスレットをしていないクレアの左手の痣を、初めて会ったときのように大きな掌ですっぽりと包み込んだ。

クレアはほんの少し頬を赤らめると、やがて落ちてきた十二歳年上の夫の甘いキスを、この世の何よりも幸せな気持ちで受け入れたのだった。



Fin.
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