冷徹騎士団長の淑女教育
クレアよりもはるかに大きく厳格な騎士が口にするには、不似合いな台詞だった。

おかしなことを言う人だと思った。自分のようなちっぽけな存在を、どう扱ったらいいか分からないだなんて。

前の雇い主のところにいたときは、大人たちは機嫌がよいときはクレアに優しく接し、そうでないときは邪険に扱った。自分など、そんな大人にとっては取るに足らない存在だと思っていたのに。



「……だが、どうか俺の言うことを聞いてほしい」

ぽつぽつと、アイヴァンは語りだした。

「俺は、君のような子供に慣れていないだけで、君をいじめるつもりはないんだ」




アイヴァンは、慎重に言葉を選んでいるようだった。本当に、子供に慣れていないのだろう。

クレアは、彼に見放されたわけではないことに気づいて、ホッと胸を撫でおろす。

同時に、幼いなりに目の前の騎士の不器用な優しさを感じ取った。



(どうやったら、アイヴァン様に私の気持ちが伝わるかしら)

クレアは、アイヴァンに嫌気などさしていない。本音は、アイヴァンの傍にいたい。だが未熟なクレアは、アイヴァンにその思いの丈を伝える言葉を思いつかない。

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