冷徹騎士団長の淑女教育
「そうだ、その調子だ。1・2・3……」

その晩もクレアは、アイヴァンにダンスを教えてもらっていた。

アイヴァンは片手でクレアの手を取り、反対の手を腰に添えて、どこかぎこちなくステップを踏んでいく。思うに、アイヴァンはダンスに関してはさほど上手ではない。



この一年の間に、クレアの髪は結い上げられるほどに伸びた。食事の影響か、赤毛も色素が薄くなり、小麦に似た色に変わってきている。

アイヴァンの指導通りにステップを刻みながら、クレアはそっと彼を見上げた。

漆黒の髪に瞳。アイヴァンは相変わらず、見惚れるほどに端正な顔立ちをしている。

レイチェル曰く、このところ王宮騎士団の仕事は多忙を極めているらしい。そのうえ公爵嫡男としての仕事も絶えず、寝る間もないのではとレイチェルは心配していた。

それでも疲れひとつ見せず、アイヴァンはこうやって頻繁にクレアのもとに来てくれる。そして、自分が苦手なダンスをクレアのために教えてくれる。



「上手いな。君は、ダンスに関しては天性の才がある」

やがてクレアの手を離したアイヴァンは、満足げにそう言った。

彼がこうやって微かでも笑ってくれたとき、クレアはたまらなく嬉しくなる。

「ありがとうございます……!」

瞳を輝かせて礼を言えば、アイヴァンは戸惑ったような笑みを見せた。



クレアの面倒を見るようになって一年が経つが、アイヴァンはいまだクレアの扱い方を持て余しているようだった。

早く大人になりたい、とクレアはいつも思う。

立派な淑女になれば、アイヴァンはきっとクレアの扱い方に困りはしないだろうから。

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