冷徹騎士団長の淑女教育
年季の入った木造りの階段を、ギシギシと音を鳴らしながら登っていく。一日中動いていたため体は重だるく、冷たい水に幾度も触れた手はあかぎれだらけでヒリヒリ痛む。

踊り場でクレアは、ふと窓の外の異変に気づき足を止める。

(街が、赤い)

クレアが働いているこの屋敷は、バロック王国の城下町を見渡せる丘にある。クレアは街のあちらこちらで火が上がるさまを間のあたりにして、目を見開いた。



何か、大変なことが起こっている。幼いながらにクレアがそう感じた直後のことだった。

――カンカンカンカンッ!!!

異常を知らせる鐘の音が、思い出したかのように街の方から激しく響いた。

とたんに、階下が騒がしくなる。今までの楽しそうな話し声からは一転して、悲痛な叫び声が上がった。

「見てっ! 街が燃えているわ……!」
「ユーリスの騎士団が攻めてきたんだ! ああ、なんてことだ……、この国は終わりだ……!」
「ここが襲われるのも時間の問題だ! 今すぐに逃げ出そう!」
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