冷徹騎士団長の淑女教育
「目が覚めたか」

クレアの手を離さないままに、アイヴァンが言った。

「本当に、手のかかる子供だな」




「どうして、私はここに……」

「晩餐会を早めに抜け出し様子を見に来てみれば、レイチェルが君がいなくなったと騒いでいた。そして、野原で倒れているところを見つけたんだ」

淡々とした口調だったが、今のアイヴァンの台詞には、たくさんの労りが込められていた。

アイヴァンはクレアが心配で、予定を変更して今夜も別宅に来てくれたのだ。そしてクレアの失踪を知り、探し回った。暗闇のことだから、探すのは容易ではなかっただろう。それでも彼はあきらめず、クレアをここに連れ帰ってくれた。

アイヴァンの優しさが身に染みて、同時に自分の愚かさを思い知り、クレアは瞳に涙を滲ませた。

そんなクレアを叱咤するように、アイヴァンは低い声を出す。



「……どうして邸に戻らなかった?」

「それは……」

クレアは、咄嗟に嘘をつこうとした。

痣のある自分が災いを及ぼすかもしれないことなど、自分の醜さを改めて教えるようで、伝えたくはなかった。

だがアイヴァンの鋭い瞳に射抜かれると、出かけた言葉が喉の奥に消えてしまう。


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