冷徹騎士団長の淑女教育
「……私がいると、アイヴァン様が不幸になるからです」

クレアは、恐る恐る口を開いた。目の前のアイヴァンは、表情一つ変えることなくクレアを見ている。

「どういうことだ?」

「……私は、災いを呼ぶ存在なのです。今日、人に言われました」

クレアはそう言うと、アイヴァンの掌の中から逃れるように、手を引き出した。

そして、掌の付け根から手首に掛けて広がるコイン状の痣をアイヴァンに見せる。

「この醜い痣が証拠です。それに、この魔女のような赤い髪も……」

 


語尾にいくに従い、声が震えた。自分がどれほど醜いかを、アイヴァンに伝えるのは酷だった。クレアを淑女に育てるために、アイヴァンはあれほど懸命になってくれたのに。全てを水に流すようで、申し訳なさが込み上げる。

小刻みに肩を震わすクレアを、アイヴァンは無言のまま見つめていた。

鋭い眼差しは、醜いクレアを咎めているように思えた。

だがアイヴァンは一息つくと、クレアの瞳を真っすぐ見つめて言った。

「――君は、美しい」
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