冷徹騎士団長の淑女教育
驚きのあまり、クレアは硬直する。

そんなことは言われたことがないし、思ったこともなかった。それに他人に厳しいアイヴァンの口からそんな台詞が出たことが、信じられなかった。

戸惑うクレアを戒めるように、アイヴァンはなおもクレアを真っすぐ見続けながら言った。




「君は将来、この国の誰よりも美しくなる」

「そんなこと……」

いくら何でも言いすぎだとは思ったが、アイヴァンの力強い眼差しを前に、クレアは何も反論できなくなった。

「自分を信じろ、クレア。自分が信じられないなら誰の声にも耳を貸すな、俺の言葉だけを信じろ」

「アイヴァン様……」



クレアの大きな瞳から、涙が零れ落ちる。無性に泣きたくなって、クレアはひっくひっくとしゃくり上げながら泣きはじめた。

ただ、純粋にうれしかった。

生まれて初めて、美しいと言われたことが。それもアイヴァンの口からなら、なおさらだ。

アイヴァンの前では、大人でいたかったのに。幼子のようにめそめそと泣いていたら、嫌われてしまうかもしれない。けれども、とめどなく溢れる涙は止まる気配がなかった。
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