冷徹騎士団長の淑女教育
アイヴァンは、泣き続けるクレアの傍にずっといてくれた。

それ以上は気の利く言葉はかけてくれなかったし、泣いているクレアを撫でもしてくれなかったけれど、それで充分だった。

泣き疲れて眠気が再び襲ってきた頃、朦朧とする意識の中でクレアはひたすらに願った。

(ずっと、アイヴァン様の傍にいられますように)

胸があたたかくなると同時にぎゅっと苦しくなるこの気持ちが何なのか、クレアは勘づきつつあった。

クレアは、アイヴァンに恋をしているのだ。

九歳と二十一歳では、到底叶うはずもないけれど、膨らむ気持ちは最早抑えることはできなかった。




すがるように、アイヴァンの上着の袖を掴む。

ずっとアイヴァンの気配を感じていたかったから眠りたくはなかったけれど、まだ子供のクレアは睡魔に抗えそうになかった。

「お願い。ずっとそばにいて――」

目上のアイヴァンに対してこんな砕けたもの言いをしてはいけないのは、彼が教えてくれたから知っている。

だが今にも眠りに落ちそうなクレアには、分別をわきまえる余裕がなかった。




目を閉じていたので、アイヴァンがどんな表情をしていたのかは見えなかった。

だが掴んだ袖が微かに動いたから、クレアの必死の思いは通じたのかもしれない。

そうであって欲しいと思う。

初恋の甘い疼きを感じながら、クレアは深い眠りに堕ちた。
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