冷徹騎士団長の淑女教育
応接間には、届いたばかりのドレスが飾られていた。

アイヴァンは、月に一回の頻度でクレアにドレスを仕立ててくれた。

といっても、どんなに煌びやかなドレスを用意されたところで、他人に披露する機会もないのだが。クレアが外出を許されているのは週末教会に行くときだけで、その際は目立たないように地味なドレスを着なければならなかった。



(アイヴァン様が、気に入ってくださるといいのだけど……)

アイヴァンの後ろで、クレアは内心ドキドキしていた。年上のアイヴァンに少しでも釣り合うようにと、仕立て屋が採寸に来た際に、大人っぽい生地での仕立てをお願いしたからだ。

フリルの控えめなそのドレスは、大人の色香漂う薄紫色をしていた。肌触りのよいサテン地には、真珠やシルバーの飾りが花模様を描くように縫い付けられている。

大きく開いた胸元は、流行りのデザインらしい。



「いかがでしょう? 素敵なドレスだとお思いになりませんか?」

笑顔のレイチェルも満足そうだ。子供のいないレイチェルはクレアを実の娘のようにかわいがっており、殊にドレスの仕立ての際はいつも上機嫌だった。

以前に口を滑らしていたが、アイヴァンを育てた際には味わえなかった女の子特有の楽しみ方を、クレアで満喫しているらしい。
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