冷徹騎士団長の淑女教育
階下の騒ぎが静まり始めた頃、クレアは階段がギシ、ギシとしなる音を聞いた。

何者かが、クレアのいるこの踊り場に向けて、階段を登っているのだ。

使用人たちは捕らえられ、屋外に連行されたのだろう。室内が静かになった代わりに、窓の外が騒々しい。



しばらくすると、クレアが見据える階段の先に、騎士らしき人間のシルエットが見えた。

まるで闇に溶け込むかのような、漆黒の甲冑を身に着けている。

騎士は階段途中でいったん歩みを止めると、確認するようにクレアを見て、再び歩み始めた。

薄汚れた子供が突如うずくまっていたため、きっと驚いたのだろう。

男は、とうとうクレアの目前までやって来た。




見上げるほどに、背の高い男だった。男がしゃがみこんでも、座っているクレアより目線は遥かに上だ。兜を被っているため、どんな顔をしているのかは分からない。

「……名前は?」

やがて、男が口を開く。耳に心地の良いバリトンの声だった。

「……クレア」

クレアが静かに答えれば、男はおもむろに兜の目元を上方に開いた。

宵闇に似た漆黒の瞳が、真っすぐにクレアを見つめている。

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