冷徹騎士団長の淑女教育
ダンスホールに入れば、暗黙の了解でレッスンが始まった。

まずは、二列ダンスのステップの確認だ。アイヴァンは窓際で腕を組み、クレアが一人ステップを刻むのをリズムを取りながら見ている。

何も言わずに次の指示が出れば、合格という意味だ。

アイヴァンの執拗なまでの厳しさは、この十年変わっていない。

アイヴァンはクレアをほとんど褒めることはないのに、少しでも間違えようものなら何度もやり直させた。

ダンスに関しては、特に厳しかった。自分自身はダンスが不得手だから、なおさらクレアには厳しくするのかもしれない。


「次は、アルマンドだ」

アイヴァンが窓際から離れ、クレアの方へと歩んでくる。二列ダンスは、どうやら合格のようだ。

クレアはほっと胸を撫でおろすと同時に、こちらへと近づいてくるアイヴァンの気配に緊張していた。

アルマンドは、男女二組で踊る代表的な宮廷ダンスだ。男性のエスコートで女性がターンした際、隣の女性と入れ替わるのが特徴で、ターンのタイミングが難しい。




上着を脱いだアイヴァンは、オフホワイトのシャツに黒の下衣といういで立ちだった。速やかに歩み寄ったアイヴァンが、クレアの手を片手で取り反対の手を腰に回す。

こうして身を寄せるたびに、アイヴァンの背の高さや鍛え上げられた肉体の剛直さを感じて、彼が男なのだということを認識する。

クレアの白い指先に、日焼けした長い指が絡まる。アイヴァンが直に触れた掌に、一気に熱が集まった。

クレアの胸がはち切れんばかりに早鐘を刻んでいることなど、アイヴァンは知る由もないのだろう。
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