冷徹騎士団長の淑女教育
翌日。日曜日のミサに参列するために、クレアは一人でアイヴァンの別宅を出た。

生成りの地味なドレスに、同色のショールといういで立ちだ。豊かに伸びたプラチナブロンドは、人目につかないようにベールの中に収めている。

毎週日曜日にそうしているように、サンベルトリ教会の礼拝堂で祈りを捧げ、早々に帰るために教会を出た。

週に一度の一人での外出は、勉強づくしのクレアの息抜きの時間でもあった。九年前に少年たちにからかわれて以来、人とはほぼ接触しないようにしている。醜い痣は今はアイヴァンが贈ってくれたブレスレットに隠されているので、人目に晒される心配もなかった。


この界隈はちょうど祭りの最中で、人通りはいつもより多かった。春先のこの時期は、春の訪れを祝い今年の豊作を願う祭りが、毎年催されている。

教会のある広場のあちらこちらが花の咲き誇る植木鉢で飾られ、レモネードや焼きとうもろこしの屋台が並ぶ。香ばしい香りと人々の熱気。いつもの広場とは、まるで活気が違う。



人々の笑顔で広場は華やいでいるけれど、クレアは浮かない気持ちだった。

昨日、アイヴァンの上着から女物の香水の匂いを嗅いで以来、そのことばかりを考えていたからだ。

アイヴァンは、その女性とどんな話をしたのだろう。どんな風に見つめ合って、触れ合ったのだろう――。

アイヴァンがときどき長期間邸に来なくなるのは、もしかしたらその女性と過ごしているからなのだろうか。
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