冷徹騎士団長の淑女教育
よほど、ぼんやりと歩いていたのだろう。いつしか人ごみの中に紛れ込んでいたクレアは、前方から駆けてきた大きめの子供に肩をぶつけられてしまう。

あっと思った時にはもう、バランスを崩して地面にしりもちをついていた。

「いたたた……」

アイヴァンには女性の気配があるし、転ぶしで、踏んだり蹴ったりだ。

情けない気持ちになりながら、クレアがどうにか立ち上がろうとしていると、ふいに目の前に手が差し伸べられた。

「大丈夫?」




見れば、一人の青年が、上品な笑顔を浮かべながら目の前に立っていた。優しい色合いのくせがかった金色の髪に、ダークブルーの瞳をした美しい青年だった。

うっすらと弧を描く口許には、理知的なものを感じる。胸元の空いたシャツにベージュのズボンというラフな恰好ではあるが、それとなく漂う気品があった。

クレアは、慌ててショールで顔を隠そうとした。他人に顔を見せてはならないと、アイヴァンと約束したからだ。

だがその時、何の因果か強い風が吹き荒れた。

春の嵐と呼ばれるこの突風は、この季節の風物詩でもある。ゴウッと唸りをたてる風から身を守るために、広場に集う人々ははしゃぎながら帽子やスカートを押さえていた。

「……きゃっ」

クレアも慌てて生成りのショールを押さえようとしたが、間に合わなかった。

あっけなくクレアの頭を離れたショールが、薄桃色の花びらとともに、青空へと舞い上がる。
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