冷徹騎士団長の淑女教育
青年の言葉に、クレアは思わず足を止めた。

(今、”女性”って言った……?)

アイヴァンにしろレイチェルにしろ、いつまでもクレアを子供扱いするから、クレアは世間的に自分は子供に見えているのかと思っていた。

青年は、クレアが反応したことに満足げに微笑む。

「そうだよ。しかも君みたいな綺麗な女性は、特に危険だ」

お世辞の上手い人だと思った。とはいえ、彼にはやはりクレアが”女性”に見えているらしい。

二度も女性扱いされ、クレアはほのかに上機嫌になる。早く大人の女性になりたいと日々背伸びしているだけに、喜びもひとしおだ。

改めて見れば、屈託のない笑みを浮かべる青年は、とてもいい人そうだ。身なりもきちんと整っていて、それなりの身分であることが伺える。貴族の別荘地をうろついている時点で、彼が上流階級の人間であることは間違いがないのだが。

だが、クレアにはアイヴァンとの約束がある。親切な人とはいえ、必要以上に他人と親しくしてはいけない。だから目いっぱい丁寧に断ろうと思った。




「ごめんなさい。とてもありがたいのだけれど、ご遠慮させてください。でも、あなたに親切にしていただいたことは忘れません」

クレアの断りにも、親切そうな青年は嫌な顔ひとつしない。

「そっか、残念。それなら、せめて名前と年を教えてよ。僕の名前は、エリック・マクシミリアン・ルイ・フィッシャー。今年で二十歳になる」

クレアは一瞬戸惑ったものの、これ以上この青年を冷たくあしらうのは気が引けた。

「私は、クレア。十八歳です」

小さな声で答えれば、「クレアか、いい名前だ」とエリックはまた満足そうに微笑んだ。

「年も近いし、僕たちいい友達になれそうだね」
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