冷徹騎士団長の淑女教育
(きれい……)
クレアは、零れ落ちそうなほど大きな瞳をパチパチと瞬いた。
男の瞳は鋭く、どちらかというと冷たい印象だ。だがその濁りのない漆黒は、屋根裏の小さな窓から見た春の夜を連想させた。
花や木々の息吹がほのかに香る、どこまでも深い漆黒の闇。真っ黒で何も見えないのに、不思議と安心感を与える色。
クレアが男の瞳に見とれているうちに、男はクレアの左手に視線を落としていた。
はっとして、クレアは手を引っ込めようとする。あの醜い痣を、咄嗟に彼に見られたくないと思った。
だが屈強な騎士の力に叶うはずもなく、クレアの痣は男の目にあっけなく晒されることとなる。
(終わりだわ)
クレアは、自分が今すぐに殺されることを悟った。もしくは騎士の情けで、この場に捨て置かれるかのどちらかだろう。
ぎゅっと目を閉じ、騎士の動向をうかがう。だが彼がとった行動は、クレアが全く予想していなかったものだった。
ふいに左手首に感じたことのない温もりを感じ、クレアは恐る恐る瞼を上げる。
見ると、男の大きな両手がクレアのか細い手首を包み込んでいた。
驚きのあまり、クレアは息を呑んだ。その醜い痣に触れられたのは、初めてのことだったからだ。
戸惑うと同時に、手首から伝わるあたたかさに、たまらなく泣きたくなっていた。
人の手が、こんなにもあたたかいだなんて。
それを、こんな状況下で、敵国の騎士に教わるなど思いもよらなかった。
涙を滲ませるクレアの顔を、漆黒の瞳が物静かに見つめている。
やがて漆黒の騎士は、何も言わないままに、そっとクレアの背中と膝裏に手を回す。
そして、軽々と抱き上げた。
クレアは、零れ落ちそうなほど大きな瞳をパチパチと瞬いた。
男の瞳は鋭く、どちらかというと冷たい印象だ。だがその濁りのない漆黒は、屋根裏の小さな窓から見た春の夜を連想させた。
花や木々の息吹がほのかに香る、どこまでも深い漆黒の闇。真っ黒で何も見えないのに、不思議と安心感を与える色。
クレアが男の瞳に見とれているうちに、男はクレアの左手に視線を落としていた。
はっとして、クレアは手を引っ込めようとする。あの醜い痣を、咄嗟に彼に見られたくないと思った。
だが屈強な騎士の力に叶うはずもなく、クレアの痣は男の目にあっけなく晒されることとなる。
(終わりだわ)
クレアは、自分が今すぐに殺されることを悟った。もしくは騎士の情けで、この場に捨て置かれるかのどちらかだろう。
ぎゅっと目を閉じ、騎士の動向をうかがう。だが彼がとった行動は、クレアが全く予想していなかったものだった。
ふいに左手首に感じたことのない温もりを感じ、クレアは恐る恐る瞼を上げる。
見ると、男の大きな両手がクレアのか細い手首を包み込んでいた。
驚きのあまり、クレアは息を呑んだ。その醜い痣に触れられたのは、初めてのことだったからだ。
戸惑うと同時に、手首から伝わるあたたかさに、たまらなく泣きたくなっていた。
人の手が、こんなにもあたたかいだなんて。
それを、こんな状況下で、敵国の騎士に教わるなど思いもよらなかった。
涙を滲ませるクレアの顔を、漆黒の瞳が物静かに見つめている。
やがて漆黒の騎士は、何も言わないままに、そっとクレアの背中と膝裏に手を回す。
そして、軽々と抱き上げた。