冷徹騎士団長の淑女教育
「誰かと口をきいたのか?」

しまった、とクレアは唇に指先をあてがった。これでは、エリックと話したことを間接的に伝えているようなものではないか。

「……誰と話した?」

徐々に低くなる、アイヴァンの声音。ずいっと身を寄せられ、逃しはしないとでもいうように問い詰められる。

だが、その時アイヴァンのシャツからも仄かに薔薇の香水が香っていることに、クレアは気づいた。途端に気持ちがまたモヤモヤとして、今度は怒りに似た感情が込み上げてくる。




「誰と話したって、いいではないですか。アイヴァン様だって、私の知らないところで私の知らない方とお話をしているのに」

目の前のアイヴァンを、キッと睨む。

「私だけ誰とも話してはいけないなんて、不公平です。そもそも、どうして自由に外出してはいけないのですか? 他人と話しても、いけないのですか?」

いつにないクレアの気迫に、アイヴァンは多少なりとも気おされているようだった。漆黒の瞳が戸惑うように揺らぐのを、クレアは見逃さなかった。

――ずっと、私の傍にいて。

クレアの伝えたい想いはそれだけなのに、言葉が素直に出てこない。それどころかアイヴァンに不平不満をぶつける形になってしまって、大人げない自分を情けなく思った。



でも、いったん湧き上がった怒りは、早々におさまりそうにもなかった。いつしか、瞳からは涙もあふれ出す。

「私だって……自由に生きたいわ」

< 61 / 214 >

この作品をシェア

pagetop