冷徹騎士団長の淑女教育
翌日、クレアは重苦しい気持ちを引きずったまま、庭園を歩いていた。そろそろ春が終わりを迎えようとしているこの時期、庭の至るところで薔薇が花を咲かせ始めてた。
アイヴァンの別宅の庭は迷路のような造りになっていて、あちらこちらに茂みがあり、花壇やアーチ門が点在している。人目をくらますのにはちょうどいい場所で、クレアは気分転換したいときは、決まって庭園を散歩するようにしていた。
この庭がこんな面白い構造なのは、庭師の男の遊び心からだとレイチェルは言っていた。庭師の男はひょろりとした地味な男で、いつも自然に溶け込むような深緑の山高帽を目深に被っていた。
どうやら喋るのが極端に苦手らしく、クレアはここ十年の間に数度しか言葉を交わしていない。そんな男にこんな遊び心があるなど、にわかに信じがたかった。
寝ても覚めても、昨日見かけた女性の影がクレアの脳裏に張り付いている。彼女の容姿がとても大人っぽかったことが、クレアをまた傷つけた。やはりアイヴァンは、大人っぽい女性が好みらしい。
「はあ……」
ため息をつきながら、クレアは茂みの一角にへたり込む。すると――。
「悩みごと? 相談に乗ろうか?」
あり得ない方向から声がした。
驚いたクレアが跳ねるように顔を上げれば、外壁の頂上にくつろぐようにして座っている金髪の青年と目が合う。先日教会帰りに出会った、エリックだった。
アイヴァンの別宅の庭は迷路のような造りになっていて、あちらこちらに茂みがあり、花壇やアーチ門が点在している。人目をくらますのにはちょうどいい場所で、クレアは気分転換したいときは、決まって庭園を散歩するようにしていた。
この庭がこんな面白い構造なのは、庭師の男の遊び心からだとレイチェルは言っていた。庭師の男はひょろりとした地味な男で、いつも自然に溶け込むような深緑の山高帽を目深に被っていた。
どうやら喋るのが極端に苦手らしく、クレアはここ十年の間に数度しか言葉を交わしていない。そんな男にこんな遊び心があるなど、にわかに信じがたかった。
寝ても覚めても、昨日見かけた女性の影がクレアの脳裏に張り付いている。彼女の容姿がとても大人っぽかったことが、クレアをまた傷つけた。やはりアイヴァンは、大人っぽい女性が好みらしい。
「はあ……」
ため息をつきながら、クレアは茂みの一角にへたり込む。すると――。
「悩みごと? 相談に乗ろうか?」
あり得ない方向から声がした。
驚いたクレアが跳ねるように顔を上げれば、外壁の頂上にくつろぐようにして座っている金髪の青年と目が合う。先日教会帰りに出会った、エリックだった。