冷徹騎士団長の淑女教育
第一章 新しい生活
その邸宅は、クレアが雇われていた邸より一回り小さい大きさだった。玄関ホールに入れば、白亜の螺旋階段が二階に延びている開放的な造りだ。
以前の邸のような絢爛豪華さはないが、どこもかしこも綺麗に掃除され、居心地がよい。
漆黒の騎士が馬から降ろしたクレアを抱きかかえたまま玄関に入るなり、「おかえりなさいませ、アイヴァン様」という落ち着いた声がどこからともなく聞こえた。
濃紺のメイド服を着こんだ五十歳程度の女性が、廊下の先から歩み寄り騎士にうやうやしく頭を下げる。白髪交じりの髪を結い上げ、ややふくやかな体系をしていた。
どうやらこの騎士は、アイヴァンという名前らしい。ここに至るまでの道中、クレアは幾度か他の騎士たちが彼を「小隊長」と呼ぶのは耳にしていたが、名前を聞くのは初めてのことだった。
「彼女を風呂に入れてやってくれ。そして、二階の一室を与えてやって欲しい」
アイヴァンの声に、使用人らしき女性はすぐに再び頭を下げる。
「かしこまりました。さ、こちらへ。私のことはレイチェルと呼んでくださいまし」
アイヴァンはクレアを床に降ろすと、その身をレイチェルに引き渡す。
そして自身は、別室に消えて行った。
なぜ、アイヴァンがクレアを生かしたのか。なぜ、こんな立派な邸に連れ帰ったのか。
ことの状況が全く呑み込めないクレアは、不安な気持ちのままアイヴァンの後ろ姿を見送ることしかできなかった。
以前の邸のような絢爛豪華さはないが、どこもかしこも綺麗に掃除され、居心地がよい。
漆黒の騎士が馬から降ろしたクレアを抱きかかえたまま玄関に入るなり、「おかえりなさいませ、アイヴァン様」という落ち着いた声がどこからともなく聞こえた。
濃紺のメイド服を着こんだ五十歳程度の女性が、廊下の先から歩み寄り騎士にうやうやしく頭を下げる。白髪交じりの髪を結い上げ、ややふくやかな体系をしていた。
どうやらこの騎士は、アイヴァンという名前らしい。ここに至るまでの道中、クレアは幾度か他の騎士たちが彼を「小隊長」と呼ぶのは耳にしていたが、名前を聞くのは初めてのことだった。
「彼女を風呂に入れてやってくれ。そして、二階の一室を与えてやって欲しい」
アイヴァンの声に、使用人らしき女性はすぐに再び頭を下げる。
「かしこまりました。さ、こちらへ。私のことはレイチェルと呼んでくださいまし」
アイヴァンはクレアを床に降ろすと、その身をレイチェルに引き渡す。
そして自身は、別室に消えて行った。
なぜ、アイヴァンがクレアを生かしたのか。なぜ、こんな立派な邸に連れ帰ったのか。
ことの状況が全く呑み込めないクレアは、不安な気持ちのままアイヴァンの後ろ姿を見送ることしかできなかった。