冷徹騎士団長の淑女教育
「エリック大公殿下。今すぐお帰りください。そして、この先この家に近づくことを禁じます」

クレアの心の疑問に答えるかのように、アイヴァンが言った。

(大公殿下……?)

クレアの体に、戦慄が走った。

ユーリス国で王家の次に権力を握っているのが、大公家だった。先々代の王の実兄が大公になってから、今に続く由緒正しき家系だ。

当然、公爵であるアイヴァンよりも身分は上だ。血を遡れば王族に行きつくのだから。




「そっか、まあバレたらしょうがない。でも、君の言うことは合ってるよ、人の家に忍び込むのは良くないよね」

パンパンと体の埃を払いながら、エリックが言う。それから、流し目でクレアを見た。

「だけど、最後に一つだけ教えてよ。彼女は、あなたの何? 娘にしては年が近いし、恋人にしては年が離れている気がするんだけど」

「……答えるつもりはありません。今すぐにお帰りになられないのなら、こちらも出方を考えます」



アイヴァンの答えに「つれないなあ、相変わらず。鬼の騎士団長は容赦ない」とエリックは軽く笑った。

そして座ったままのクレアを見下ろすと、今までのアイヴァンへの挑戦的な態度が嘘のような、穏やかな笑みを浮かべる。

「……必ず、また来るから」

クレアの前を横切る一瞬、微かに身をかがめたエリックは、クレアにしか聞こえない小さな声でそう囁いた。

そして追い出される者がするとは思えない飄々とした足取りで、門から出て行った。

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