冷徹騎士団長の淑女教育
彼女の華奢な掌の感触が、まだ手の内に残っている。折れそうなほどに細い指先に、子供の頃とは違う肌の滑らかさ。

本能のままに彼女をきつく抱きしめて、その白く艶めかしい肌を我が物にしたいと願った。

彼女が他の男に触れられているところを目にした瞬間から、アイヴァンの中で何かが変わりつつある。




「いついらしてたのですか? お茶をお持ちいたしました」

静かなノックののち、ティーポットとカップの載ったお盆を手にレイチェルが入ってきた。

「来られることをあらかじめお知らせくだされば、クレア様を呼んでおきましたのに。先ほどからお庭におられるようでして、連れ戻しに参りましょうか?」

「もう会ったから大丈夫だ。そもそもこの辺りの所用ついでに寄っただけで、彼女に会いに来たわけじゃない」

「そうですか」

手慣れた様子で、レイチェルがティーカップに紅茶を注ぐ。ほんのり薔薇の香るローズヒップティーは、ベンが採取した薔薇の実から抽出されている。気配のない不気味な男だが、薔薇作りに関しては一流だ。

「そういえば、王宮の方は大丈夫なのですか? 陛下のご容態が優れないと、噂でお聞きしましたが」

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