冷徹騎士団長の淑女教育
クレアは薔薇の香りのする湯を張ったバスタブで、レイチェルに体の隅から隅までを洗われた。パサついていた赤毛も綺麗に洗髪され、香料入りのオイルを使って丁寧にブラッシングされる。

「結い上げるには、少し長さが足りませんね。まあ、そのうち伸びてからでよいでしょう」

バスタブに浸かったままのクレアの髪を丁寧にときながら、レイチェルが呟く。

「……そのうち?」

クレアは、驚きのあまり初めてレイチェルに口をきいた。今のレイチェルの口ぶりだと、まるでクレアがこの先もこの邸にいることが決まっているかのようだ。

レイチェルはブラシを持つ手を一瞬止めると、振り返るクレアに視線を投げかけた。目鼻立ちのはっきりとした少々きつい印象の顔立ちだが、目の奥には微かな温もりが宿っている。

「ええ、そのうちです」

うっすらと微笑みながら、レイチェルはきびきびとそう答えた。

「あなたはこれから毎日こうして、私にブラッシングされるのですから」

「………」

クレアは、返す言葉を失う。何から問えばよいのか、どう問えばよいのか、戸惑いのあまり何も思い浮かばない。

再び口を閉ざしたクレアを構うことなくレイチェルはブラッシングを終えると、彼女を連れてバスルームをあとにした。
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