迷子のシンデレラ
1.一夜限りのシンデレラ

「君も遊びに来たんだろう?
 楽しみなよ。」

 そう。これは一夜の夢。
 夜が明ければ魔法は解けてしまう。

 皆、一様に中世ヨーロッパの貴族を思わせる衣装を身にまとい、タイムスリップしたかのような状況を楽しんでいる。

 一目で上質な生地で作られていることが分かるあでやかなドレス、男性も胸元にドレープがたっぷりきいた衣装。
 そして顔には素性を分からないようにする為の仮面。

 ここは仮面舞踏会が行われているダンスホール。

 壁の花に徹していた榎下智美へ近づいてきた彼もまた、深いエメラルド色をしたジャケットに、大袈裟な飾りのついたシャツ。
 マスクは深い紫色で目と鼻先までを隠していた。
 一般的な形のマスクは右上の大きな飾り羽が付くことで華やかな印象を与える。

 その姿が滑稽に見えないところはさすがここへ招待されるべき、どこぞの御曹司だからだろうか。

 マスクでただ隠しているだけなのに、そのせいなのか、それともマスクをしていても隠せずに彼の中から滲み出ているのか。
 その姿はとても扇情的で見つめられるだけで体が熱くなった。

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