迷子のシンデレラ
「智美ちゃん。今日こそ食事へ行こう」
運転手にナンパされるのはいつものこと。
慣れた手つきで伝票を切って彼へ手渡した。
「また機会があればお願いしますね」
その機会を作る気はもちろんない。
ここは朝岡物産からは遠く離れた田舎の小さな会社。
産業廃棄物を運搬する運転手へ計量した数値に応じて伝票を切るのが仕事。
小さいながらにアットホームな職場で居心地はいい。
経理全般を任されてやり甲斐も感じている。
伝票を受け取っても帰っていかない運転手と智美の間に社長が割って入った。
「私のところの息子が先だよ。
どうだい?
うちの息子、将来有望だよ?」
社長もいつも「うちの息子はどうだい?」と勧めてくる。
確かまだ高校生だ。
好き勝手言う周りの人たちに笑って返す。