迷子のシンデレラ

「本当に食べてしまいたいよ。
 自分の腕の中にいることが夢のようで……」

 そう言いながら頬を甘噛みする葉山に智美は慌てて彼を制止する。

「琉依くんが起きてしまいます」

「それは……」

 自分が呼ばれたと思ったのか、琉依が本当にグズグズ言いだして智美は葉山の腕の中から抜け出した。

 すぐさま琉依の元へ駆けつける智美を見て「敵うわけないよなぁ」とぼやく。

 葉山も体を起こして智美たちの元へと歩み寄った。
 狭い部屋は大人が二人も立っているととても窮屈でいつかの智美のアパートへ来た時のことを思い出す。

 あの時は狭いから座っていてと言われた。
 けれど、今はそうは言ってられない。

 自分見下ろす葉山へ智美は不安そうな眼差しを向けた。
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