迷子のシンデレラ

「私には何もありません。
 葉山……周平さんに釣り合う地位も名誉も何もありません。
 私では彼の足枷になるだけだと……」

「智美!」

 葉山は智美の話を遮って声を上げた。

 背を向けたままの葉山の父は落ち着いた声色で正した。

「私は智美さんに聞いている」

 周平は黙っていなさい。と、言わんばかりの物言いに彼は口を閉じ、拳を握りしめた。

「智美さん続けて」

 葉山の父に促され、智美は再び思いを吐露した。

「私では周平さんの足枷になるだけだと彼の前から姿を消しました」

「それならどうして堕ろさなかったのですか?」

「それは……」

 ギリギリとこちらにまで奥歯を噛み締めている音が聞こえてきそうな葉山の姿を目にして、智美はそっと彼の手に触れた。
 ハッとした彼が表情を緩め、瞳を和らげて智美を見つめた。

 大丈夫。
 葉山さんなら大丈夫。

 ゆっくりと目を閉じて、覚悟を決めると目を開いて未だ背を向けている葉山の父へ思いを伝えた。

< 144 / 193 >

この作品をシェア

pagetop