迷子のシンデレラ

「分相応ながら私は周平さんを愛していました。
 だからこそ彼の足枷にはなりたくなかった。
 彼には彼にふさわしい婚約者の方がいて、彼はそういう方と結婚すべきだと思いました」

「質問の、答えになっていないようだが?」

 どうして堕ろさなかったのか、それは前に葉山へ伝えた通りだ。
 それをそのまま葉山の父にも伝える。

「私では彼にふさわしくない。
 けれど彼のことを愛している気持ちは消せなかった。
 せめて……。
 一夜限りの夢だったとしても構わない。
 彼と愛し合った証を……彼との子どもだからこそ、この腕に抱きたかった」

 言葉にすると簡単で、けれどそこに至るまでには葛藤があった。

 彼に似ているであろう赤ちゃんを育てていけるだろうか。
 何もかも忘れてしまった方がいいのではないだろうか。

 そんな恐ろしい思いも過ぎらなかったわけではない。

「そうですか。
 それで、今さらどうして周平と結婚すると?」

 そう言われてしまうとそれはそうだ。
 結局は子どもを盾に結婚を迫ったと思われても仕方がない。
 いくら葉山本人に結婚しようと言われたからと言って、断るべきなのだから。

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