迷子のシンデレラ
「世に出回っている私の写真は幾分古いものでね。
主要な取引先へ関わっている社員に扮して出向いていたのだよ。
朝岡物産へは内村課長として。
形原コーポレートへは村瀬部長として……と、ね」
目を丸くする智美と葉山に周蔵は説明を付け加えた。
「もちろんどの会社も面識がある重役は私のことを知っていたから口止めしてあった。
取引先の社長と知らずに対応する少しでも自然な姿を見たかった」
彼はとんだ策士のようだ。
自分の息子にも知らせずに上手いこと内村課長と話を合わせていたようだ。
打ち合わせに応じていた河本も知る由もない。
葉山商事の内村課長だと信じて疑わずにいた河本が知ったら目を回すだろう。
「知らなかったとは言え、失礼がありませんでしたでしょうか。
申し訳ありませんでした」
「いやいや。それはこちらの望む姿だ。
そして関係各社のご令嬢の姿を見ることもまた、我が社の次期社長夫人を選別する上で……」
ここまで静かに聞いていた葉山が勢いよくテーブルをたたいた。
「余計なお世話だ。
俺は智美と結婚すると、結婚の挨拶に来てるんだ。
それを……」