迷子のシンデレラ

 智美が封筒をつかむ前に、葉山がそれを手にして周蔵へ投げつけた。

「ふざけんな。
 俺は俺の結婚相手は自分で決める。
 俺が生涯添い遂げるのは智美だけだ。
 智美がダメだと言うのなら一生独身で構わない」

 葉山の強い意志を感じて涙がこぼれそうになる。
 唇を噛み締めて、それを堪えると僅かに滲んだ血の味がした。

「それで智美さんが幸せになれると?」

 冷たい声色に背筋を凍らせて周蔵を仰ぎ見る。
 そこには温和な内村課長に扮していた彼はどこにもいなかった。

「あんたに幸せを語って欲しくない。
 母さんは……母さんは幸せだったのかよ!」

 胸が張り裂けそうな思いを感じて涙が頬を伝う。
 自分が泣くべきではないのに、いくら血が滲む唇を噛み締めても涙は止まらなかった。

「だからだろう?
 周平の母親も家柄が違い過ぎた。
 周囲の批判に晒され元々体の弱かった彼女は産後の肥立ちも悪く……」

 言葉を詰まらせた周蔵が険しい顔つきで言葉を飲み込んだ。
 それでも葉山は非難する手を緩めない。

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