迷子のシンデレラ

「親父は母さんを愛していたのかな」

 葉山商事を後にして車に乗り込んだ葉山はぽつりと呟いた。

「それは、そうなんじゃないでしょうか。
 葉山さんのお母様が亡くなられてお父様は再婚はされたのですか?」

「いや……。
 仕事の鬼になってたから」

 葉山も心のどこかで分かっていたのではないだろうか。
 自分の母親が亡くなっても再婚しない自分の父親の気持ちを。

 そこには最愛であるはずの愛息子の眼差しを無意識に避けてしまうほどの深い愛があった。

 葉山の母、潤子への愛が深い為に息子との関係はこじれてしまったけれど。

 葉山は自分の目が疑惑の目だと言った。

 父親が目を合わせないのは母親が浮気をしたせいで、その証拠になる自分の瞳を憎んでいると思っていたような口ぶりだった。

 全てはすれ違いが生んだ寂しい勘違い。

 エメラルドグリーンの瞳は親の浮気の証拠ではなく最愛の人の面影だった。

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