迷子のシンデレラ

「僕の周りの女性はおしとやかに見えて実にしたたかだ。
 その強さにうんざりしていた」

 恵麻を見ていれば分かる。
 優しさは弱さだと言われ兼ねない厳しい世界に生きていると思う。
 したたかと彼は言うけれど、それはきっとその世界では必要な強さだ。

 彼は智美に意見を求めることなく続けた。

「そんな時、せっかく着飾ってきているのにダンスホールの片隅で踊ろうとしない女性を見つけた。
 存在を消そうとしているのが分かるのに、そうすればするほど周りとの対比で彼女が際立って見えた」

 自分のことを言われているのに、どこかピンとこない。
 葉山は尚も続けた。

「声を掛けると驚いた顔をして、控えめに僕の差し出した手に自身の手を重ねた。
 怯えてさえいるのに真っ直ぐに僕を見つめて。
 控えめでそれでいて芯の強い眼差しに心奪われたよ」

 褒めてくれているのだろうけれど、それを受け入れられなくて首を振る。

「買い被ってます。
 私はそんなに立派じゃありません」

 自分で言って情けなくなる。

 俯いていく顔を捕まえて顎を持ち上げられた。
 エメラルドグリーンの双眼は智美をつかんで離さない。

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