迷子のシンデレラ

「智美。僕を見て」

 言われて彼を見上げる。
 その目は優しく細められた。

「葉山商事社長の息子じゃない。
 ジョージと名乗った時のような素性も分からない、ただの男としての僕だ」

「でも……葉山さんは葉山さんで……」

 色気のない屁理屈が後から後から湧いてくる。
 可愛げがないのは分かってる。
 だからって素直に「はい」とは頷けない。

「あーもう、面倒くさい!
 もういいよ」

 手を強く引かれて抱き寄せられた。
 シートの隙間から運転席の方へ引き寄せられて戸惑う。

 うじうじ悩む智美に呆れてしまったような口ぶりなのに、行動が伴っていない。

「また逃げても捕まえる。そうする。
 だから覚悟をしておくように」

 明るく言われて、つい笑ってしまった。

「どうして笑うのさ」

 葉山も笑っているような声で不服を申し立てた。

「葉山さんには敵わないなぁと思って」

 乾いた笑いを吐いた葉山は智美をきつく抱きしめてから解放した。
 そして無理難題を突きつける。


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